「CBI学会若手奨励賞を受賞して」

東京工業大学 情報理工学院 大上 雅史

CBI学会誌 2023年 第11巻 第4号(2023年12月15日発行)掲載

 

 この度、第2回CBI学会若手奨励賞を賜りましたこと、大変光栄に存じますとともに、共同研究者の皆様や大上研究室の皆様、そしてCBI学会関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。

 2023年大会の初日に行った受賞講演では、「AIで広がる分子設計の可能性」と題して、簡単ですが私の最近の研究を紹介させて頂きました(概要は2023年大会の要旨集をご覧ください)。ちょうどChatGPTから画像生成モデルのDALL-E 3が使えるようになった時期でしたので、プロンプトに「AIで広がる分子設計の可能性」と入れてスライドの表紙に使ってみました。はい、私は流行りモノが好きなのです。

高専・大学学部から今に至るまでずっと情報工学系の学科で過ごしてきたこともあり、コンピューターに関わる新しいモノには比較的敏感だったと思います。2005年にバンダイから発売された「20Q」という玩具(今風に言うとakinatorのような、20個の質問で考えていることを当てにくるAI)に感銘を受けて、機械学習という技術があることを学んだことが、私の最初のAIに対する認知でした。(正確には機械学習というより情報検索がベースとなっている、ということは後から知るわけですが。)

 ただ、正直なところ現在の機械学習の姿をその時には想像もできませんでした。というより、AIは当たるも八卦という感じで、占いよりいくらかマシな予測結果で人間がほんの少しだけ幸せになる、そんな立ち位置だと思い込んでいたわけです。ですが、今のAIはマシとかのレベルの話を超えているのは皆さんの認識の通りでしょう。少し前は外しても笑って許されていたAIの予測が、今では「ウソをついた (hallucination)」とまで言われる始末です。AIが市民権を得て、信頼が醸成されてきたことの裏返しかもしれません。

 とはいえ、Chem-Bio領域ではまだまだAIでできないことの方が多そうです。タンパク質とその他分子との正確な複合体構造の予測は(なにやら足音は聞こえてきていますが)もう少し先のことになりそうですし、構造予測を含む多くの予測タスクで「ターゲットに依るよね」というケースバイケースの沼にハマります。AIに仕事を奪われるのはまだだいぶかかりそうですし、むしろ自然言語処理やコンピュータビジョンなどの情報科学への広い視野を保ちつつも、様々なモダリティやターゲットを見据えたChem-Bio領域での応用可能性を探り、独自の方法を編み出していくという超総合格闘技が求められるようになってしまいました。我々CBI分野の研究者にとってこの状況が幸か不幸かはわかりませんが、20Qに初めて触れたあのときの感覚にも似た高揚感を、今まさに感じています。